早乙女 六月の銘
早乙女(さおとめ)
早乙女とか早少女とも書くようです。田植をする若い女性のことで、転じて広く、おとめのことを指す言葉です。
早乙女(さおとめ)を一般的な辞書で引けば、だいたい「田植えをする女」という意味が書かれています。もう少し詳しく調べると、「さおとめ」の「さ」は言葉の頭につく接頭語で、「神稲」の意だという説明があります。
「乙女」は女性だということはわかりますが、「さおとめ」がどうして「田植えをする女」という意味になるのか考えてみましょう。接頭語の「さ」に注目しますと、その意味とされる「神稲」にあるのではないでしょうか?
「さ」は、もともと日本の言葉のなかで「神霊」の意味を持っているそうで、なかでも「田の神=稲穂の穀霊」を指す音だそうです。この「田の神」は農事の進行具合で移動する神様だそうです。春になると、農事が始まる頃に山から下りてきて「田の神」となり、秋に収穫が終わると、また山に帰るという伝承です。
春になって植えるのは、山から里に下りてきた田の神様=稲の神霊=「さ」の神様の苗。だから「さなえ(早苗)」。植える時期はといえば、「さ」の神様の月。だから「さつき(五月)」。そしてその「さなえ」を「さつき」の時期に植える女性たちを、「さおとめ(早乙女)」と呼んだというわけです。
このように、「さ」が、稲、米の神様だとわかると、稲、米関係の「さ」のつく言葉が続々と出てきますよね。たとえば、「さ」の神様=稲=米から作った液=「さけ(酒)」とか、酒のおかず、つまり菜になるのが酒の菜「さかな」などなど…。この酒やさかなを神に供する意味の「ささげる(捧げる)」も「さ」の神様グループの言葉かも知れません。(こじつけ?)
実は、「さくら(桜)」もその一つ言われていて、桜はこの花が咲けば春耕を始めようといった「農事暦」の目印であったようです。そして、神様が降りてきて座すところを「いわくら」と言いますが、「さ」の神様の「いわくら」となる木が「さくら」だったという説もあります。
さて、田植えをする女性「早乙女」ですが、田植えは稲作にとって最重要作業ですよね。その日は祝祭「ハレ」の日でもあったので、早乙女は、その田植神事の主役、神の奉仕役ということになります。つまり「聖なる乙女」が元の意味とも言えます。ここからも「さ」は単なる接頭語ではない感じがします。。
最初に書いた通り、「早少女」と表記されることもありますが、女性の年齢は関係ないそうです。なぜ『少女』と書くのかは、ちょっと分かりませんが。
お茶の世界でも、この早乙女はこの季節の言葉として、お道具やお菓子の銘で使われます。右は銘が『早乙女』というお茶杓です。
道具に付ける銘の由来は、所有者次第なので、大概は作者か最初の所有者のインスピレーションで決まるものだと思いますが、お稽古で銘を付けなくてはいけない時は、季節感などを身に着けるために時節に合った言葉を、その言葉の由来と共に覚えていくとウンチクも増え、お茶の世界観を身に着けて行けると思います。