無想庵コラムCOLUMN

心太 七月のお菓子

心太 七月のお菓子

心太(ところてん)

茶席の主菓子と言えば、金団や餅皮を使ったものが主流です。ですが、これだけ暑い日が続くと抹茶に合うとはいえ、ちょっと食べにくく感じる方もいるかと思います。そういう私も夏の茶席では、夏ならではのお菓子が欲しくなるタイプです。そこで今回は、ツルツルとした喉越しや、濃厚な甘さの黒蜜などで食べるのがおいしい心太(ところてん)をご紹介したいと思います。

心太の原材料は「天草(てんぐさ)」で、心太や寒天の原材料になる海藻の総称です。てんぐさという名前の海藻はなく、生産地によって「マクサ」や「オオブサ」という海藻が使われています。 心太は、この天草を煮てから固め、天付きと言う専用の器具を使い麺状にしています。

この作り方から、心太の漢字が発祥しているらしいです。 当初は「ところてん」と読まず、漢字のまま「こころふと」と呼ばれていたそうです。心太を作る際に煮だした天草が冷めて煮凝る(固まる)様子に由来します。天草が凝る、「凝海藻(こるもは、こるも)」から変化したのですが、「凝る」の字の語源は「心」、これと太い海藻を表現する「太」の字をあてて「心太」の漢字を使っていたという説が有力とされています。

心太のもっとも古い記述とされているのが、奈良時代の正倉院の木簡(もっかん)だそうで、宮中の節気行事などに使われていたようです。その後も、平安時代の書物にも、地方の産物として、心太が納められていたと記されているようです。

心太と寒天、食感も見た目も似ていますが、違いがハッキリ分からないので、ちょっと調べてみました。どちらも同じ天草(てんくさ)を使っていますが、製法に違いがあります。 心太は、天草を煮て溶かすし固めて作りますが、寒天は、ところてんを一旦凍らせたあと乾燥させて作られます。そのため、心太よりは磯の風味や香りは少なくなります。 最近の売っているものは天然の物が少なくなっているみたいで、磯の香りを感じたことが無かったので、調べてみて初めて知りました。

ところで、関西では黒蜜でデザート的発想で心太を食べるのが普通と思っていましたが、実は心太の食べ方は地域によってさまざまみたいです。 関東や東北では酢醤油と和がらし、ごまなどの薬味を食べるのが定番のようです。お蕎麦みたいな感覚でしょうか?また、東海・中部地方では三杯酢にごまを添えて食事の小鉢として食べるのが一般的だそうです。さらに四国では、だし汁につけて食べられているようです。 流石うどんが有名な地域らしいですね。

しかも、食べ方も独特で、地域によっては、心太を箸一本で食べるそうです。一本だけで食べるなんて器用ですよね。普段の食事はもちろん一膳を使うのに、心太に限って箸一本で食べるのはなぜなのでしょうね?

一説には、お箸が貴重であった時代に、江戸のある店では箸を人数分そろえられなかったことがきっかけで、やむを得ず一本で食べるようになり、江戸っ子の粋な食べ方として広まったという話しがあります。 また、箸二本(一膳)だと力が入りすぎて、心太が切れるから縁起が悪いので一本になったとか。

他にも江戸時代には高級和菓子であった心太を、わらび餅や羊羹を食べる際に使う黒文字(楊枝)で食べていた名残から、箸も一本だけ使う地域があるという説などいくつか話しが残っています。 お茶を嗜む者としては、黒文字説だと嬉しいな~。

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