春水満四沢 三月の掛け物
これは、中国東晋時代の詩人陶淵明(とうえんめい)の『四時の詩』の春の句です。 因みに四時とは 「しいじ」と読み、 四季の事を現わします。
四季の美しい情景の句として、それぞれの季節になると茶席の床に掛けられます。
春水満四澤(しゅんすいしたくにみつ) 春の水が 四方の沢に満ち
春が近づいて、雪や氷が溶けだし、川も湖も沼もすべて満々と水をたたえるようになる。身を切るような冬の水とは違って、春の水は自然に生を与えてくれる。といった情景を歌っています。
芳賀幸四郎『新版一行物』には、「春になって雪解けの水が四方の沢に満ち、どの川も水が満々と溢れ悠々と流れている。(中略)水そのものは四季によって別に変りはないはずであるが、春の水というものは、どこか悠々閑々としておだやかなものである。そのおおらかでおだやかな水、大地をうるおしやがて五穀の豊穣をもたらす水が、どこの川にも満々としているすがたに、天地和順・天下泰平・万民和楽の瑞兆を認めて、禅者はこれを揮毫し、茶人は珍重してこれを床に掛けるのである。悠揚せまらぬ大人たいじんの茶境にふさわしい五字一行である」とありました。 分かりやすい説明なので転載させていただきました。
他の三行もセットで馴染んでおきましょう。
夏雲多奇峰(かうんきほうおおし) 夏の入道雲が 素晴らしい景色の峰を形づくる
秋月揚明輝(しゅうげつめいきをあげ) 秋の月が 明るく輝いて夜空を照らし
冬嶺秀狐松(とうれいこしょうをひいず) 冬には嶺に生える一本の松の緑が鮮やかだ