初釜式とは
年が明けて、1月の最初に行われる茶行事を『初釜(はつがま)式』といいます。
茶道を嗜んでいないと、初釜という名称も初めて聞かれたかも知れませんが、初釜式は通常の茶事や茶会よりもずっとかしこまった感じで、華やかな装いで行われます。
新年を迎えたこの時期には、必ずと言っていいほど、行われる『初釜式』のことを、少し説明したいと思います。私自身、裏千家流を学んでいますので、他の流派の方には少し違う部分があるかも知れません。流派毎の違いはまた追記して行きたいと思いますので、ご指摘いただければ加筆させていただきます。
初釜は、『正月を迎えたことを祝い新年に初めて釜をかけること』を言い、新しい年を迎えて最初に行われるお茶会のことを初釜式と言います。
ですので「初釜」という言葉自体、既に新年やお正月に関する季語となっているようです。
茶道においては、毎年の行事の一つで、その年のお稽古を始める日でもあり、新しい年を祝う茶道の新年会のような意味合いもあります。
開催される日ですが、新年の挨拶が終る1月10日頃から行われるのが一般的です。
裏千家では、今年は1月7日から12日に京都の今日庵、平成茶室「聴風の間」で執り行われました。
京都だけで2200名の方がご招待されているので、1席あたり40名くらいにはなるとのことです。
初釜式の会の流れ
茶道の流派によって違いはありますが、床の間には初春にふさわしい掛け軸が掲げられ、飾る花は結び柳に椿などです。この柳は床の間の天井あたりから床畳に流れるほどの長いものを使います。都会ではすっかり柳も少なくなってしまい、青々とした長い柳の枝を捜すのは本当に大変なようで、皆さんご苦労されています。もし立派な結び柳をご覧になられたら、それだけでその席のご馳走と言えるのではないでしょうか。下の段で、もう少し詳しく説明しておりますので、そちらもご参照ください。
このような新春らしい設えを楽しんで、懐石料理(もしくは点心)をいただいき、お濃茶とお薄茶をいただく、というのが一般的な流れです。
茶の湯における懐石料理は、茶懐石とも呼ばれ、美味しい抹茶(濃茶)をいただくためのものなので、
会席料理でよく見られる天婦羅料理は茶懐石には入りません。
上の写真は懐石をいただいているときに、八寸を取り分けていただいている場面です。
懐石をいただいた後に主菓子 が出され、続いて濃茶 (これがメインイベントになります )さらに干菓子 薄茶 と続いて終了となります。(下の写真は濃茶を練っていただいている場面です。)
結び柳(むすびやなぎ)
前の段で説明を少ししましたが、もう少し詳しく説明させていただきます。結び柳は初釜の床飾りで、柳の枝をたわめ、曲げて輪に結び、床の柳釘に掛けた青竹などの花入から長く垂らしたものです。難しい言葉で綰柳(わんりゅう)とも言うそうです。写真ではちょうど青竹の部分が柱の陰になって見えていません。柳も発育が悪かったのかちょっと短めでした。
伝承では「柳」は「竜」に通ずるものとされ、進士に合格する登竜門にあやかろうと、橋のたもとにある柳の枝を一枝折って子に与え、竜(柳)になれと子を励まし、出世を祝ったという話があります。
また昔の中国では人と別れるとき、送る者と送られる者が、双方柳の枝を持って、柳の枝と枝を結び合わせて別れる風習があったようです。柳枝を結ぶとは、枝を曲げて輪にすることをいい、これは柳の枝がしなやかでよく曲がるので輪をつくり、旅人が無事に(回転して?)帰るように、旅中の平安を祈る意味を含ませたものだと言われているようです。
この故事から、利休が送別の花として「鶴一声胡銅鶴首花瓶(つるのひとこえこどうつるくびかへい)」という花入れに柳を結んで入れたのが,茶席で用いられた最初ではないかと言う説があります。
花びら餅
初釜に出される主菓子(おもがし)は、新年最初の行事にふさわしく、新春を感じさせるような鮮やかな色合いと正月の華やかさを表すお菓子が使われています。
流派によって主菓子もそれぞれ違っていて、表千家は「常盤饅頭(ときわまんじゅう)」、裏千家は「花びら餅」となっています。
この「花びら餅」、お正月にいただく伝統的なお菓子のひとつで、1月を代表する上生菓子です。白い丸餅の上に赤い小豆汁で染めた菱形の薄い餅を重ね、その上に白味噌の餡、甘く煮た「ふくさ牛蒡(ゴボウ)」をにのせて、半月型に包んだものです。下の写真が花びら餅
諸説はあるようですが、『花びら餅』は、宮中のおせち料理の一つ「菱葩(ひしはなびら)」を原形とする和菓子で、平安時代の頃より長寿を祝うため、押鮎などの固いものを食べる新年の習わし「歯固めの儀式」が伝承される過程で、徐々に簡略化されるなか生まれたものと言われているそうです。
ごぼうは、押鮎に見立てたもので、土の中に根を張るので、「家の基礎がしっかりしている」とか「長寿」を願う意味が込められているとのこと。
上の写真のように、白い半月型のお餅の両端から、ごぼうが少しはみ出しています。半分に切ると、砂糖で煮たごぼうが入った白味噌餡と小豆色の菱餅が白い柔らかい餅で包まれています。
食べてみると、お餅が柔らかで、白味噌餡の甘さも上品で、初めての方でも美味しくいただけます。柔らかく煮てあるごぼうも料理のごぼうとは違い、程よい柔らかさで食感もいいアクセントになっています。
初釜に招待されたときの心得えごと
初釜に招待された場合、参加するときの服装や持ち物にも気遣いが必要です。
服装
基本的には女性は和装(ご亭主の意向によるので、洋装でも大丈夫な場合もあります)。
男性はダークスーツもしくは着物+袴。
女性の髪型で長い髪の場合は髪をまとめた方がいいかも知れません。アクセサリーなどは控えめにします。
足元は和装の場合、白足袋です。 スーツのときは白い靴下の持って行き、待合で履き替えます。
持ち物
- 懐紙(かいし):お菓子を取り分けたり、お茶碗を拭う時に使います。
- 手拭 :お食事をする際に膝にかけて着物を汚さないようにしたり、手を拭う時に使います。
- 帛 紗 (ふくさ):会費を納めるときに使います。
- 扇子 :ご挨拶のときや拝見の時などに使います。