梅ケ香 二月の銘
梅ケ香(うめがか)
お茶の世界では、香りもまた重要な要素の一つです。今は炉の季節ですから、炉の中で焚いている炭のそばに練香(ねりこう)をくべて、その香りを楽しむのもお茶席での楽しみの一つです。
この梅ケ香という銘は、茶道の世界でよく使われている銘の一つです。梅の花の香りを指しますが、古来から梅の香りは人々から愛されていました。冬から春に移り変わっていく季節を感じることが出来るのも、梅の清々しい香りを感じた時だったのではないかと思います。
お茶の世界では季節感は、最も重要な要素ですから、花の香りも季節感を構成する重要な要素ですよね。梅の香りは中国では高貴なものとされていました。中国の文化が入ってきた日本も同じように貴族などに愛されていたのでしょう。実際、梅の異称は『君子香(くんしこう)』とか『清香(せいこう)』と付けられているくらいですから、古の人々にとっては特別なものだったようです。
先ほど触れた、練香(煉香)ですが、これは沈香をはじめとした粉末状の原料を、蜜や梅肉などで丸薬状に練り固めたお香の事を言います。 源氏物語にも記されているように、 お香は【薫物(たきもの)】と呼ばれていました。平安時代には貴族がたしなみとして衣服にその香りを薫き染めました。 何百年も昔から、 愛されていたのですね。一人一人が自分だけの香りを持ち、その香りもステータスのひとつだったといわれています。 今でいう、パーソナルコロンと言ったところなんでしょうか?
梅ケ香という銘が付いた有名な茶碗も有ります。五島美術館にある志野茶碗です。志野焼きの中でも文様がない無地志野の茶碗であり、薄く赤味を帯びた釉色は珍しいとされています。 1250度以上の高火度で紅色となる黄土を使った化粧掛けを施し、その上に白く発色する長石(ちょうせき)を主成分とする志野釉を掛けたものです。 銘はそのほのかな赤味からの連想されたのでしょうか。
丸みをもつ腰部から胴部が直上して口縁部がわずかに外反する半筒形の茶碗。 内面底部に茶渕まりを設け、体部を軽く抑圧して楕円形にしている。 底部に径が小さめの愉高台を削り出してあり、高台内の削りは内反り風になっている。
鉄で絵を描き、その上から長石釉をかけることによって、日本で初めて焼き物に絵を焼き付けることができるようになりました。人間国宝の陶芸家・荒川豊蔵氏が、昭和5年(1930)に大萱(現在の可児市)の山中で筍の絵が描かれた陶片を発見し、志野の生産地が美濃であることが判明したそうです。
志野茶碗のルーツを調べてみると、その源流「志野焼」です。室町時代の茶人・志野宗信が美濃の陶工にお願いして作らせたのが始まりといわれており、そこから志野茶碗の源流でもある「志野焼」が始まったということです。志野焼は耐火温度が高く、焼き締りが甘いもぐさ土を使って作ることが多かったようです。志野焼に使われるもぐさ土は鉄分が少なめの土で、紫色やピンク色がかった白土の素地に、長石釉と呼ばれる長石を砕いた白い釉を厚めにかけて焼くと、綺麗な志野焼・志野茶碗が出来上がります。古い志野茶碗の釉肌は、細かい貫入や柚肌、小さな孔がたくさんありでたようです。