都鳥 十二月の銘
都鳥(みやことり)
十二月限定という訳ではないですが、冬になるとお見かけする銘の一つです。
写真はミヤコドリという名の鳥で、チドリ目ミヤコドリ科に分類される鳥です。 ハトより少し大きい。くちばしと足は長くて赤く、体の上面は黒く、胸から腹、翼に白いのが特徴の渡り鳥です。ところが、和名でいう「都鳥」はまた違う鳥を指しているらしいのです。ややこしいですね…。日本の古典文学に登場する「都鳥」は、ユリカモメを指すとする説が有力です。
平安初期の歌物語である『伊勢物語』第九段「東下り」の一節にでてくる、在原業平(ありわらのなりひら)の詠んだ「名にし負わば いざ言問はむ都鳥 わが思う人はありやなしやと」という歌です。
京の都から、自分探しの旅に東国へ出かけた男達の話です。この男達、それぞれ妻や恋人を京に置いたまま出かけていました。三河から駿河を通って関東地方に入り、隅田川を船で渡っていました。川を渡ることで、京からさらに遠く離れてしまうという感傷に浸っていたときに、ふと目に映ったのは、真っ白な体で赤い足とくちばしをもつ、シギぐらいの大きさのきれいな鳥が水の上を泳ぎながら魚を食べている様子でした。
京では見かけない鳥なので、船頭さんに聞いてみると、「あれは都鳥(みやこどり)」と言うのです。みやこという言葉が懐かしくもあり、悲しくもあり、それが歌となって詠まれたのです。歌意は「都の名がついている鳥ならば、おまえに聞きたい。京都に残してきた私の思っている人は、今でも元気でいるかどうか」という感じでしょうか?
今では、冬の鴨川や桂川でユリカモメが群れ飛ぶ姿を見ている人も多いと思いますが、在原業平(ありわらのなりひら) の歌が詠まれた頃は京都にいない鳥だったということになりますよね。 鴨川に姿を見せるようになったのは、1974年のことだそうです。
ユリカモメは同じくチドリ目ですが、カモメ科に分類される鳥で、日本では冬鳥として、北海道から南西諸島まで広く渡来しおり、小型のカモメ類の大半がユリカモメです。全国の海岸や河川、沼地などに普通に渡来するごくありふれた渡り鳥です。
カモメ科としては珍しく様々な環境に対応できるので雑食性で、近くに水草が生えている河川や池では昆虫や雑草の種子などを食べるそうです。港では不要な捨てられた魚を食べたり、時には人の食べ物や売られている魚を横取りすることも少なくないそうです。まるでカラスですね!実際、カラスと取り合いなどの喧嘩をすることもあるそうです。余談ですが、私がオーストラリアにいる時、カモメがカラスどころが大きなペリカンにすら、蹴散らして縄張り確保をしているカモメを幾度となく目撃しました。はっきり言ってカモメは狂暴です。目つきも悪いです。イメージとしては夏空に飛ぶ爽やかな鳥ですが、実際は違います。
銘として使われる場合は、左の様な香合にその意匠を使われる場合が多いでしょうか?