無想庵コラムCOLUMN

氷室 八月の銘

氷室 八月の銘

氷室(ひむろ)

夏の季語にもなっている氷室。読んで字のごとく、氷を冬に採取して夏に使用できるように貯蔵する室のことで、今でいう冷凍庫でしょう。 主に天皇の食事である供御(くご)に用いたそうで、古くは日本書紀に、仁徳天皇の記事の中に、大和 (今の奈良県天理市辺り) に 都祁󠄀 (つげ)の氷室があったとされています。大昔からあったのですね。 下の写真はその都祁󠄀氷室を復元したものだそうです。思ったより結構ちゃんとした建物ですよね。

私の想像では山の中腹の洞穴などをそのまま利用して塞いでいるだけかと思っていましたが、実際の構造は 洞窟や地面に掘った穴に茅葺などの小屋を建てて覆っていたようです。 確かに昔は 天然のものを保管するしかない時代ですから、夏場の氷は貴重品ですから、長らく朝廷や将軍家など一部の権力者のものであったのは当然です。 だから手間暇掛けても立派な建造物を作ったのも納得できます。

平城京では春日山に氷室が置かれていて、宮中への献氷の勅祭を行っていたそうです。平安京への遷都後に奈良にあった氷室を祀る形で設けられたのが、現在の奈良市春日野町にある氷室神社でです。氷室権現とも呼ばれいます。

電気機器による冷蔵や冷房が普及した現代では激減しましたが、今でも節電のためやあるいは酒や食品の熟成のため、その他文化的な行事などを目的に使われています。また気候により氷雪が溶けて無くなってしまう高温の時季がある地域や一年を通して氷雪が存在しない地域でも利用され続けているようです。

茶道では、氷室という銘の赤茶碗があります。裏千家五代宗匠の不休斎常叟(ふきゅうさいじょうそう)の手づくね(楽茶碗は手で成形するのでこう言います)の赤楽茶碗です。(残念ながら写真はありません。国宝級です)それにはのちに玄々斎宗匠がご自作の句を箱書きされたという記録が有ります。この句では冬の間だれも来ない氷室の番をしている氷室守を詠んだ句ですが、氷室を冬の季語として詠まれています。夏ばかり想像してしまいますが、冬の銘として使ってもいいのだと思えるお話です。また古典芸術の謡曲では晩春の三月頃(新暦でいう五月ごろ)が氷室の季節になっています。近年は天候異常で五月でも夏の様に暑い日がありますから、氷室が涼しくて気持ち良さそうと思える季節ではありますね。

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