無想庵コラムCOLUMN

雁が音 九月の銘

雁が音 九月の銘

雁が音(かりがね)

雁(ガン)は鴨(カモ)の仲間ですが、鴨より大きく白鳥より小さい渡り鳥です。
雁には15種ほどの仲間がいるそうです。日本には冬になる前に北方から雁が渡ってきますが、現在その種類は真雁(マガン)、雁が音(カリガネ)、黒雁(コクガン)、白雁(ハクガン)などだそうです。晩秋に日本に渡って来て越冬し、春になるとまた帰っていきます。

雁は空を飛ぶときに、隊列を組んで飛びますが、「グァングァン」という鳴き声を出しながら飛びます。雁が音はこの鳴き声を指しています。記憶が定かではないですが、もしかしたら私も幼いころ聞いたかも知れません。昔の人はこの鳴き声をこよなく愛したそうです。

雁が実際に日本で生活するのは冬の間なので、本当は冬の鳥ですが、北方から渡ってくる晩秋の光景に情緒があるため、晩秋の季語になっています。

雁の名前そのものが季語になっているもの、例えば真雁(マガン)や菱喰(ヒシクイ)などがありますし、また空を飛んでいる雁の様子が季語になったものもあります。「雁渡る」「雁の棹」、「雁が音」などです。

雁が群れをなして空を飛んでいることを表す言葉の数は多いようで、やはり人々は空を飛んでいる雁の姿、そして同時に発せられる鳴き声に心を寄せていたことがわかります。古くは万葉集にも出て来て詠まれています。昔から日本人にはこれらの言葉を思い浮かべるだけで、秋の夕暮れの空が目の前に広がるような気持ちになるようですね。文学的ではない私でも多少、哀愁の気持ちが起こります。

雁が日本にやって来るのは、晩秋のことですから、雁の空を飛ぶ姿や鳴き声は、昔の日本人にとって、そろそろ冬がやって来ることを教えてくれるものでした。 と同時に狩りの対象でもありました。カモの仲間ですから、獲物として貴重な食料になっていたことでしょう。
煮物やおでんによく使われる「がんもどき」は豆腐に人参やゴボウを混ぜて油で揚げたものですが、雁の肉に味を似せて作った精進料理だから、がんもどきだという説もあるくらいです。 がんもどき単体の味もよくわからないというか、おでんなど味付けされた料理でしか、食べたことがないので実感としてよく分かりません。

雁が渡ってくる頃は、七十二候では鴻雁来といい、昔の人は、この頃の寒さを「かりがね寒き」と表しました。
この言葉もまた、今でも季語として使われているようですが、最初にこの言葉が使われたのは万葉集だということですから、雁が音という言葉にはかなりの歴史があることがわかりますね。

茶道と関係あるような、無いような話ですが、抹茶ではなく、日本茶の中に「雁が音」と呼ばれる種類があるのをご存知でしょうか?

もともと京都で使われていた言葉だそうですが、普通の日本茶が葉の部分を使っているのに対して、「雁が音」は茎の部分を使っているお茶で、全国的には茎茶と呼ばれることが多いようです。玉露や煎茶を製造するときには、茎や葉脈を取り除いてお茶葉がそれぞれ製造方法やグレードの違いでいろんなお茶になっていきます。本来捨てられていく茎や葉脈にも十分に風味があるため、茎茶として販売されているのです。茎には、葉にはない爽やかな風味が感じられるため、わざわざ雁が音を好んで飲んでいる人もたくさんいるそうです。普段、暖かいお茶と言えば、抹茶か玄米茶かしか飲んでないのですが、以前一度か二度ほど頂いたとき、確かに爽やかというかさっぱり?としたお茶だったことを覚えています。

雁が音の名前の由来ですが、茶葉の茎の部分を、雁は渡っている途中に、海の上では体を休める場所がないため、浮いている小枝の上で休むと言われていますが、その枝に見立てたからだといわれています。

もう一つの特徴として、普通の日本茶は2煎目からが、味が出て美味しいといわれていますが、雁が音は1度お茶を淹れると、次からは味が薄くなってしまいます。一回きりの使い捨てということですよね?ある意味贅沢なお茶です。

さて、肝心の銘の話ですが、茶杓などの銘に使われています。右の写真は「かりがね」という銘の北村謹次郎作のお茶杓で、北村美術館所蔵です。この「かりがね」がどういう経緯でどなたが付けられたのかは分かりません。

一般的な銘の付け方として、たとえば晩秋の頃に手に入れたので命名される方もいらっしゃるでしょうし、茶杓の景色(様子とか雰囲気)からインスピレーションを得て、命名される場合もあるでしょう。俳句などから命名されたり色々だと思います。

今回は、余りにも雁が音の説明が完璧だったので、しきたり【shikitari.net】というサイトを引用させていただきました。一応、加筆修正など一部はしておりますが、ベースは上記のサイトの文章です。

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